夢の猛虎を飼ってるもん

恋人が語った昔の男についての話。ある日、その男は「今の自分には闘争心が欠けている気がする」と叫んで外に飛び出し、帰ってきたときには虎の刺青をいれていたという。結局なにも変わってないのに満足げだった男の様子を恋人は笑い話として話す。
「闘争心と体に絵ぇ描くの関係ないやん。しかも帰ってくるなりなんか満足して寝ちゃってな。全然闘争してないし」
しかし俺にはこの愛すべき間抜けさが理解できる。理解できちゃいけないのかもしれないができる。この話を聞いて以来、俺の好きな動物は虎。
で、ある日、恋人は唐突に俺の元を去ってしまい、悲しみに暮れる俺は「今こそ俺も虎の刺青をいれる時じゃないだろうか」と思ってみたのだが、失恋により更にやせ細った俺の腕には虎を住まわせるほどの面積はなく、しかなく俺は「今日から 俺は心に虎を住まわせるのだ。いや俺こそが虎なのだ」と決意し、鏡の前で怖い表情をしてみたのだが、それだけで大体のところ満足して眠ってしまい、何の進歩もないままに現在に至るというわけ。