我に加護を

何となく空を眺めていたら歌い踊る愛くるしい少女の姿を思いだしたが、その名前がどうしても思い出せなかった。記憶の糸を手繰ろうとすると、一手繰りするごとに頭の中の映像がするするとほどけはじめ、思い出にあるおぼろげな姿すら歪みはじめたので慌てて思い出すのをやめた。少女がモーニング娘に所属していたことやダブルユーというユニットを組んでいた事はわかっていた。私は彼女のCDを買い、ハロープロジェクトのコンサートへも足を運び、中でもお気に入りだったその少女を熱狂的に応援した。にもかかわらず、彼女の名前を思い出そうとすると記憶の波は揺れ、揺れを押しとどめようとすると、その行為自体に夢中になり、そのうち記憶の照準はふらふらと逸れて、気が付くと1時間も辻希美のことを考えているのであった。思い立って押し入れをかき分けてアイドル誌を引っ張り出したが、彼女の載っているページだけが綺麗に切り取られていた。一瞬背筋が寒くなったがなんのことはない、私が切り抜いてスクラップブックにしまったのだ。そしてそのスクラップブックはとうに捨ててしまった。やれやれ。私は仕方なく携帯電話を手にし、今もモーニング娘のファンを続けている友人に電話をした。ダブルユー辻ちゃんじゃない方って誰だっけ?今、テレビに出てない方の子のことさ。しかし電話越しにもわかる混迷がしばらく続いたあと、友人は全く要領を得ないといった調子で「ダブルユーはもともと1人じゃないか」と答えたのだった。