落ちた帽子との間合いを計る

病院から帰る途中。チャイルドシートに幼女を乗せて自転車をこぐ母親とすれ違った時、幼女のかぶっていた帽子が風にあおられて飛んだ。
無視して通り過ぎるには俺と帽子の距離が近すぎたのだが、俺が自転車を降りてまで帽子を拾うには母親と帽子の距離が近すぎる。
俺は決断し、自転車を降りて帽子へ手を伸ばした。しかしやはり帽子落下地点への到着は母親のほうが早く、彼女は俺の好意を無にしないためにわざと歩幅を狭め、手を伸ばす速度を遅らせ、俺に帽子を拾わせた。
俺が帽子を手渡すと母親はありがとうございますと言ってお辞儀をした。お互いに使わなくていいエネルギーを使ってしまったわけだが、これは無駄なことだったのだろうか。俺としては「まあ、無駄でもこういうのは大事よね」というところ。もしここで幼女が後ろを振り向いて無言で小さく手を振りでもすれば、俺の「こういうの大事よね論」は補強されたのだが、何故か幼女のとった行動は、帽子を掴んだ手を大きく後方に反らせてフリスビーの要領で俺の顔面めがけて帽子を投げつけるというものだった。