俺とポリスと太陽と

「はあ…はあ…はあ…はあ……奥さぁん…。奥さんの頭上には何色の太陽が輝いてるのォ…?」
そんな新機軸のイタズラ電話に対する奥さんの回答は、
「あたしの空に太陽は輝いていない」
そこで俺がすかさず
「だったら俺が…奥さんの太陽になってあげるよ」
かくして俺と奥さんは人の道ならぬ環境を構築した。むう、完全なプランが完成してしまったよ。何度シミュレーションしてもトゥルーエンドにたどり着く。これは実行するほかあるまいな。
さっそく決行した結果から言わせてもらえばあれだね。見学気分で一度ばかし警察署に行ってみるってのも悪くないもんだ。こってり絞られたあと、阿佐ヶ谷警察署から出た俺は立番中の警察官に「ヨッ」と手をあげて挨拶しながら夏の太陽の眩しさに目を細めた。
こうやって太陽が輝いていないことが原因でイタズラ電話という悲しい犯罪が起こってしまったが、太陽が眩しかったらどうなるかというと、かの名著・異邦人に知られるとおり殺人が起こってしまう。太陽の明度如何によって犯罪のランクがかわるのであろう。しかし太陽が輝かなくても犯罪がなくなるわけでなくイタズラ電話か。最低限でもイタズラ電話は起こってしまうわけだ。人間とはなんと罪深い生き物よ。
そうそう。太陽が眩しいのもいかんが、太陽がいっぱいなのもいかん。やっぱり殺人が起こる。しかもこっちは財産目当てときた。
俺は「♪もしも太陽がなかったら」と太陽戦隊サンバルカンの主題歌を口ずさみながら空を見た。
輝かなくても犯罪が起こるなら太陽が消え去ったらどうだろう。これなら犯罪もなくなるのではなかろうか。そこで俺は空想の中の奥さんの言った「太陽は輝いていない」という言葉について考えた。あれは「輝かぬ太陽が頭上にある」という意味だったのか、それとも「頭上に太陽自体が存在しない」という意味だったのだろうか。これはもちろん後者に違いない。空想の中の電話がイタズラ電話だと認識されていなかったことからも間違いない。
そうかあ。太陽がなくなればいいのかあ。平和を愛する俺は太陽を消滅させる方法を2分ほど考え、すぐに飽き、そして犯罪がなく奥さんがいる世界について思いをめぐらせ、そして車にはねられた。アスファルトに寝そべって血に染まる視界の隙間から太陽を見ると、太陽は轢き逃げの明度で輝いていた。