ハロー・ザ・ベイビー

知人の家に赤子がやってきたと聞いて半年、そろそろ見に行ってもよかろうと思い知人宅を訪ねた。
俺は生後半年になる子の想像以上の大きさに驚きながら自分で手ぶらでやってきたことを詫びた。
「絵本ぐらい持って来れば良かったろうか?それとも0歳児に絵本は早かったりするのかね」と聞くと、なんともう絵本はたしなんでいると聞く。さっそく俺はその子のお気に入りを読ませてもらった。
タイトルは「はじめてのあかちゃんあそびえほん・こんにちは」。
まず最初のページは、見開きの左にうさぎさん、右にりすさんが配置されお互いが出会うシーンから始まる。
「とことことこ… あ、りすさん」「あ、うさぎさん」
そしてページをめくると2匹は互いに頭を垂れ、挨拶をかわす。
「こんにちは」 「こんにちは」
ページをめくると、うさぎさんの前に新しい動物がやってくる。俺はページをめくる。
「こんにちは」 「こんにちは」
更にページをめくると、また新しい動物がやってくる。俺はページをめくる。
「こんにちは」 「こんにちは」
そんなことが短い間隔で去来するデジャブのように繰り返され続け、最後はやはり「こんにちは」 「こんにちは」で締めくくられた。全く何も起こらないまま。
俺はハードミニマル挨拶ショーに意表をつかれ「むう」と唸った。


この本は生後間もない赤ん坊を対象にしているだけあって「こんにちはという言葉を覚えさせよう」という狙いがあるわけではなかろう。おそらくは漠然と「人と人が会ったら何かお互いに言うらしいよ」というのを知る程度が目的ではないだろうか。その家の赤ん坊は繰り返しその絵本を読んでいると聞く。よくわからんがその子には良い効果がありそうな気がするじゃあないか。俺はこんにちはという言葉の味わい深さを感じながら家路についた。