フレンドシップとベイビリティ

カレー屋で後方の席にいる二人組の男が大声で話をしておった。
大声であるにもかかわらずくぐもった声で語られるのは若者への憎悪であった。ティーン達の知性を、服装を、言動を恨みがましい調子で罵倒し続けるのを聞いていると俺の心は荒み、口の中の飯はどんどん味を失っていった。
「要するにあいつらは軽薄な結びつきしかなく真の友情を知ることもなく死んでいくアホどもである」というのが二人組の言い分であるようだった。
彼らがどんな思想を持っていようと俺には関係ないのだが、いささか品のないまでの大声で我が食事を邪魔されてはかなわん。徐々に味を失いつつある食事は、多めの水で3倍ほど薄めたかのようになり始めている。これは一刻もはやく注意せねばなるまい。
俺は後方に体を捻って愕然とした。若者を憎む二人組が中年男性ではなく大学生ぐらいの年齢だったからだ。一人は小太りでもう一人は痩せていたが、二人とも黒ぶちの眼鏡をかけ、揃って不満そうに唇を尖らせていた。
注意することなど忘れて我が身を飲み込もうとする暗黒の瘴気に呻く俺。口の中は既に砂でも噛んでいるような具合の無味。
そして捻った体をゆっくりと正面に戻しながら、「あの二人は『真の友情』というもので結ばれているのか」と考えた途端に、ついに飯は完全に味を失い、口の中はスプーンの鉄の味だけで満たされた。
俺は皿に跳びこみそうなぐらいに頭を垂れ、背骨を折らんばかりに圧し掛かる憂鬱に耐えながら「酸っぱい葡萄でも味があるだけマシではないだろうか」などということを考え続けるのだった。