構うな!

遠くから聞こえたバイクの爆音がどんどん近くなり、階段を駆け上がる音のあとに続くのは猛ノックされるドアの音。何事かと思ってドアを開けると全身汗だくの男が体を震わせながら立っていて、荒い息の混じった声でこう言うのだ。「俺に構うな」と。私が「はあ」と相槌ともなんとも言えない返事をすると男は納得したのか踵を返して去っていった。といっても退散したわけではない。男は別の家のドアを叩いては同じように「俺に構うな」と言っては次のドアを叩くということを繰り返しているのであった。彼の構われないための戦いは続く。