空気・観音・ただひとつ

路上にうち捨てられたオタグッズの放つ異様さは独特なものがある。例えるなら白骨化した情熱というか。
今日、マンションの植え込みの陰にKanonもしくはAIRのキャラと思われる絵柄がプリントされた湯飲みが捨てられているのを見かけた。俺にはいたる絵を見分ける能力は備わってないが、これがクラナドでないことはなんとなく想像できた。単に湯飲みにプリントされた絵柄の褪せ具合から判断しただけである。印刷された絵柄は幾たびもオタの指によって擦られ、くる日もキッチンに差し込む陽光で炙られ、そして路上捨てられた後は連日、雨に打たれ続けたのであろう。すっかり幽霊のようになってしまったそれは、かろうじて、いたる絵であることがわかるのみであった。むしろそこまで色褪せているにもかかわらず、なんとなくいたる絵であることがわかるあたりが凄いんだけれど。
湯飲みは口を下にして逆さまに置かれていた。よって表面に描かれた様々な少女の顔はどれも脳天を下に向けたまま泣いたり笑ったりといった表情を浮かべていた。全ての顔には泥が付着していた。そんな、明日にも完全に褪せきって消えてしまいそうな顔を見ていると「えいえんはないよ 二次元のせかいにすらないよ」という声がどこからともなく聞こえてくるのだった。不思議な話だが俺には確かに湯飲みの声が聞こえた。あれは間違いなく湯飲みの発した言葉だった。しかし帰宅してからグーグルで検索してみると、それはKEYのゲームの台詞ではないのだった。