落とす頃に

明けても暮れても憂鬱。というより暮れっぱなしだ。ここ数週間、明けた覚えがない。
日の光は俺を照らす直前で角度を変えてしまう。それた光は俺の眼前にある道を焼く。
地面を踏みしめるときの感触がない。大地は太陽に焼かれた。いや、そもそも太陽とは何なのか。
球状のものだということは覚えているが、それ以外はわからない。
にゃあと猫が鳴く。わんと犬が鳴く。しかしそれは俺の耳に届かない。空気が無いからだ。
コントラストの破壊された視界と、ボリュームの壊れた聴覚。
口を開くことはできるが声はでない。いや、俺に聞こえないだけで実際は出てるのかもしれん。
ニュートラルな思考?違う。磨耗の末、平坦になっただけだ。起伏のない精神。
│人だけの世界。
落下する感覚。
とにかく在るべき姿を取り戻さなくてはならないと身をよじるが、それは果たせない。
しかたなく俺は闇の中へ戻る。戻るしかないのだ。
まわりが騒がしいことに気づく。何も聞こえない俺にもわかる類の騒がしさ。
すべてが終わる予感がする。ただ俺の予感は当たらない。終末はすべててでなく俺にのみ訪れる。