それを携帯と呼ぶな

わりと多くの人が気にしたことがあるらしいし、自分も気にしたことがあるはずなのに、この前、知人が「携帯電話の略称が携帯になったのはどうかと思う。携帯はあくまでも携えることじゃん」と言ったのを聞いた俺は「別にいいんじゃねえの」と軽く受け流してしまった。社会に洗脳され考える力を失った傀儡よの。着信のドレイよの。しかも、彼の話を聞き流す俺の手に握られていたのは携帯。
しかしだねー、思ったんだが、朝食や昼食を『朝』とか『昼』とか言うじゃないの。「お昼なんにする?だとか「朝はちゃんと食べなくっちゃ」だの。もしかしてこれには、人前で食事について言及するのは浅ましいことだという日本人の美意識が関係してたりするのかもしれんが、この省略に疑問を抱く人はあまりおるまい。「朝を食う」という超詩的表現に疑問を抱かぬのだから、「持つ事を携える」のぐらいチョロいもんじゃあねえのー。
というか正式名称にすら対象の重要な特徴が含まれていないものの略称ってすごいな。何の話かというと仮面ライダーの話なんだが、彼を構成する重要なファクターである所の『バッタの』『改造人間である』ということが一切無視されているじゃないの。仮面であることよりも、何の仮面であるかが重要なんじゃないかと思うのだが。更にこれを省略した形に至っては『ライダー』だ。取捨選択を完全に間違っている。『たのしい幼稚園』を『たのしい』と略するぐらいの暴挙。
ライダーを許容できてるのだから携帯ぐらいチョロいものよ。まあ、この「○○がOKだから○○もOKなはず」という思考法自体が思考停止の最たるものである気もするのだが構うものか。バイクに乗らない平成ライダーを『ライダー』という略称で呼ぶことにより最後の砦すら瓦解し、『ライダー』という略称は何者を指しているかわからぬ言葉になってしまった。永遠に針がふらふらと回り続ける壊れた羅針盤のようなものだ。それを思えば『携帯』は実際に携帯してるわけだし全く間違っているというわけでもない。大丈夫。大丈夫……。全てにおいて完全に大丈夫……。