見えない誰かとの会話

商店街を歩いていたら、俺の眼には映らない誰かと熱烈な議論を繰り広げる男を見かけた。相手が見えないながらも、議論は彼の優勢で進んでいるように感じられた。最近の世相からすれば、見えない敵との対決ルートに人生のストーリーが分岐してしまう人がいるのは仕方のないことではあるが、短い商店街を駆け抜けるまでに同タイプの人間を4人も見たのには驚いた。一点を睨み据える男達の目はどれも宙に穴を開けんばかりに燃え、口から吐き出される言葉は不明瞭ながらも、その内容が幸福なものでないことは容易に想像できた。しかし4人か。4人は多いだろう。あんなに短い商店街に4人だなんて。そう思うと、もしや他人に見えないものが見えていた男は1人だけだったのではなかろうかと思えてくるのだった。