認識・二次元・三次元

アイドルファンが握手会に繰り返し足を運ぶ目的のひとつに「認識されたい」というものがあるようで、要は有象無象のファンの群れの中で固体識別されたいということだ。コンサート中に文字の書かれたボードを掲げるなどの手段でレス(ステージ上にいるアイドルから客席にいる個人へのリアクション)を求めるなど、一部のファンにとって認識されることはとても重要であるらしい。で、認識されてどうなりたいのかというと、次のステップは特になかったりする。強いていうなら「もっと認識されたい」とかになるのだろう。もちろん、アイドルと交際することを最終目標に掲げている人もおるかもしれんが、それはおそらく少数派だ。アイドルがファンと交際する例はゼロではないにしても、流石に握手と筆談だけをきっかけに交際が始まったという話は聞いたことがない。恋愛に至る道を模索するならあまり良い選択とは言えないだろう。
アイドル以外の話だと、ストーカーが女性の郵便ポストにどう考えても恐怖以外の感情を持ちようがない文面の手紙を投函したり、留守番電話にどう考えても恐怖以外の感情を持ちようがない内容の伝言を100件ほど残したり、ドアの前にどう考えても恐怖以外の感情を持ちようがない種類のプレゼントを置いていったりする例がある。ストーカーとて気が狂ってるわけではないので、普通に考えれば日に100件の留守電が幸福な恋愛へのステップとして機能するわけがないのはわかるはずだ。しかし彼らは実行してしまう。これらも認識されたい欲求が暴走した結果なのだろうと想像できる。
で、何の話かというと、二次オタが半ば冗談で、そして半ば本気で口にするところの「三次元と違って二次元は裏切らない」というアレなんだが、これは裏切られないんじゃなくて、そもそも認識されてないという話だよな。認識されてなければ裏切られようがない。まあ、このフレーズは「俺は俺を裏切らない」という意味なのかもしれんけどさ。
でも二次オタにとって認識されることが快楽ではないということでもなさそうなんだよな。ギャルゲーの類でも、さも登場人物がプレイヤーを認識しているかのように見せるシステム……例えばプレイヤーの名前を呼んでくれたりだとか、キャラの受け答えが自分の発言を理解した上でなされてるように見せかけたりだとか。最近だとエロゲのtech48がフェイストラッキングというプレイヤーの視線をキャラクターが認識しているかのように見せかけるシステムを取り入れているし、やはり二次オタも認識されたがっているようだ。いや、認識されごっこをしたがってるといった感じかもしれんけど。
しかしまあ、どこまで行けど二次元が受け手を認識することはないんだよな。二次オタが求めてるのは認識されることの快楽の要素だけで、それに伴う苦痛は求めていないし、それでいいのかもしれん。そりゃ金払って苦痛を味わいたかないよな。あと、自分と情熱的な日々を過ごし、ただ自分だけを愛してくれたキャラクターが他の男にも同様に愛を語っている事実をどう納得していくかという問題もある(今すぐ君の嫁とやらの名前をグーグルで検索してみたまえ)。個人でありながら個人でない存在に求める『認識』とはなんなのかという話だな。
長門(例の団に所属してるメガネ)が君に惚れている所を想像できるだろうか?おそらく長門が好意を抱くために必要な条件は『相手がキョンであること』なので、長門が認識能力を持った所であんまり幸福な状況は訪れないよな。ここでオタに要求されるのは、自分が長門に惚れられる可能性だってあるあもしれないという自己欺瞞、もしくは「俺はキョンです」という自己暗示かなあ。どっちにしろ二次オタに必要とされるのは自分を誤魔化していくスキルなのか。それを言うなら前述のアイドルオタにこそ自分を誤魔化していくスキルが要求されているわけであり、オタに求められるのは一流の催眠術師であるということなのか。さあ、眼前の五円玉を紐がぶっちぎれんばかりにブランブランさせたまえ。五円玉が止まった時が君のオタとしての死なのだ。……でもオタとしての死が人間としての誕生という場合もあるかもしれんしなー。認識という檻に囚われるよりはよっぽど幸福……いやいや、檻の中の暮らしを幸福と思えてこそオタという話もありましてね……。あれ、これホントに何の話かわからなくなったな。