犬の名前

子供の頃、妹が飼っていた犬がラッキーという名前だった。その犬が病気による衰弱で死を待つのみとなった時、妹は犬の傍に座って、悲しそうな顔で犬の名を何度も呼んでいたのだが、死という無上の不幸を前にした妹が「ラッキー ラッキー」と幸福を連呼してるのが面白くて、本当に申し訳ないんだけどすごく面白くて、肩を震わせて笑いを堪えた。犬の飼い主である妹にとってはラッキーというのは愛犬を指す名前であり、犬に興味がなかった俺にとっては本来の意味での幸福という単語でしかなかったということだろうか。結局ラッキーは死んだ。ラッキーは死んだという言葉が醸し出す寂しさは凄いな。これについては犬の飼い主であろうとそうでなかろうと同じ事であるようだ。何であろうと最後は死ぬ。ラッキーだって死ぬ。