ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破を見てきた(ネタバレあり)

良いものだったな。思わず親指を立てた右腕を高々と掲げて「ナイスメガネ」と賞賛の言葉。それに対してマキもピッと親指を立てて「ナイスメガネ」と応じ、そして何故かその指をぐるぐると回し始める。ゆっくりゆっくり回転させる。両方の手の親指をぐるぐると回し続けるマキ。その回転は三日三晩続いたという。なんなんだこの文章。まあ、いいや。とりあえず感想ですけど、ネタバレありますので注意してください。
 最近、時代がエンターテイメントに求めてるのはスピード感である気がするんですね。長い年月をかけオタ文化が成熟したゆえに、視聴者にとって既知の類型的な物語のバリエーションが増えてしまい、そこから「わかりきってる展開だけど見たい」「わかりきってるから省略してもいいんじゃないの?」の二択が発生し、当然の事ながら視聴者にとって退屈な描写は後者として省かれるのが流行であるように見えるのです。最近だとバクマン。とかけいおん!ですかね。人間関係のトラブルは描かれるけど、それをネチネチ長時間描いたりすることはせず1話サイズでスカッと収束するような。
 エヴァではどこか時代の空気を反映したような展開が繰り広げられていくような所があるので、恐らくエヴァにもスピード化の波は押し寄せてくると思ったのですが、これがどういう形で成されるのかさっぱり想像がつきませんでした。複数の搭乗者と複数の機体に見せ場を与えつつ、既定数の使徒を殲滅、そしてそれを取り巻く大人達の事情や物語に隠された謎の断片を提示をしなければならない。だがエヴァの登場人物は一所に固まっているわけではないので同時に消化できるエピソード数が少ない。特に新キャラのマキとアスカのクローズアップがないなら、こいつらは何の為に出てきたのかわからないということになるので彼らの見せ場も重要になるし……これほどまでにスピード感を発揮しにくい作品を納得いく形で終わらせるのは正直、無理なのではないかという不安すらありました。
 しかし全くの杞憂でしたね。最初の辺りまでは「こんな日常エピソードとかやってる時間ないんじゃないのー?」みたいな心配はあったのですが、それらが最終的に怒涛のラストに向けて進み出すのは圧巻でした。
 今作って重要なポイントに赤線を引くとしたら、すごいわかりやすいと思うんですね。「私が死んでも代わりにはいるもの」の名台詞に「えっ!?代わりとかいるわけないじゃん」と至極まともなクロスカウンターを打ち込むシーンと……あとは「人に感謝する時はありがとうって言うと良いよ」あたりに、親指の先をカッターで切って血のラインを引いておけばだいたいOKというか。旧作に比べてさっぱりしてるのはもちろん、かつてのエヴァが『悩む事』それ自体に赤線を引く事を求めていたのに対して、新劇場版で赤線が引かれるのは『どう乗り越えるか』なんですね。ここに強く時代の空気を感じました。
シンジの性格が旧作に比べて男らしくなり、周辺人物もシンジに友好的に描かれていたのもスピード感の増幅に役立っているのはもちろん、これにも2009年上映作品の空気を感じました。このスピードは悲しみや苦しみの先にある物を見せるための加速であり、実に男らしさを感じる加速でしたね。言うなれば「ついてこい!」と「一緒に走ろうぜ!」の中間にあるような感じですかねえ。あとは「引っ張ってやるよ」と「引っ張ってくれ」あたりかなー。それらが渾然一体となってエヴァのスピード感を作り上げているように思えました。
近いうちに、もう一回見ますよ。


◆その他

  • 前時代の海洋生物を前に「私と同じ」と言いだす綾波や、ミサトが綾波の変化を愛だと評するのに対して強い語気で「ありえないわ!」というリツコにちょっと笑った。何故機密情報を思わせぶりに漏らしたがるんだ。いやいや、お話としてしょうがないですけど。
  • トウジが物凄い勢いで死亡フラグを立て始めたので、「こいつはよっぽど片足がいらんらしい」と思いながら見てたら、その後に赤い馬鹿が超高速で死亡フラグゲージを溜めだしたので焦った。おいおいおいおい!って。
  • 『今日の日はさようなら』が流れた瞬間に「うわっ!急に10年前の空気に!」と、これまたちょっと笑ってしまった。過剰演出ーみたいな。ただ、あとで考えるとこれは意味がなくもないんですよね。後でかかる『翼をください』と対になってるのはもちろん、アスカの生存が絶望的であることを視聴者に印象付けるのに役立っているし。「また会う日まで」なんて存在しないのがエヴァニヒリズムなので、俺の微かな希望がガリガリ打ち砕かれていきました。あーん、アスカ様が死んだー。
  • だから生きてた事に驚きですよ!作中でも一応の生存について言及されていましたが、予告でバーンと顔見せしてたのは良かったですね。やっぱ人殺しちゃうとシンジ君がクヨクヨせざるを得なくなって、物語のスピードが落ちてしまうからなー。あと予告でサクッとアスカを見せちゃうあたりもスピード感ですよね。視聴者諸君もそんなとこで憂鬱になってる必要はねーんだよと。もちろん、アイパッチラングレーのビジュアル的インパクトをフックとして使おうという意図もあったでしょうけど。
  • アスカがボコられたあとに「シンジさん可哀想すぎる……。俺はこんなにしょんぼりした気持ちで映画館を出なければならないのか……」というポイントで出てきたマキは本当に良かった。ナイスメガネ。歴代メガネヒロインどものメガネを一つ残らず割るぐらいの爽快な活躍。シンジのみならず俺も救われたー。