Answer×Answer2とデジタルの悲しみ

Answer×Answer2になって、タッチパネルに表示された対戦相手のアバターをつつくと、そのキャラクターに対して自分のアバターが「ブラボー!」と賞賛のメッセージをおくる機能が追加されたヨ。
クイズマジックアカデミーシリーズにタイピング問題を利用した擬似チャットが存在するのに対して、Answer×Answerにはコミュニケーションの手段が全く存在しなかった。これはAnAnにおけるタイピング問題の仕様にも関係しているだろうが、1対1という対戦形式の問題も少なからず関わっていたように思える。1対1の対戦ということは、送られたメッセージは常に自分に対してのものということになってしまうので、クイズゲームのおまけのコミュニケーションにしてはちょっと重いような感じがするのだ。現にAnAn2でも1対1のプレーオフではブラボーが送れない仕様になってるし。
基本的にブラボーは相手の見事な解答を賞賛するために存在するのだが、これに限らず対戦前の挨拶としてだったり、相手のアバターのカスタマイズを褒めるためだったり、対戦相手のブラボーに対する返事代わりだったり、相手にエールを送るために使ったり……その他諸々が全てブラボーの一言で行われる。ここら辺は開発側も想定してた気がする。例えばこれが「ナイス!」だとか「お見事!」だとかいうボイスだったら使用用途が限定されそうなものだが、ここで「ブラボー」をいう日常会話での使用頻度が低そうでありつつも意味合い的には誰もが知っている言葉を選択したあたりにそれが窺える。また、このゲームではブラボーを受けた回数によって微量ながら賞金(段位をあげるために必要)が貰えるので、単に相手のブラボーを促すためだけのブラボーというのも存在する。しかし結局の所、相手の真意というのは知りようがない。我々が分かるのは、『彼が我にブラボーと言った』という事実のみである。
問題なのはブラボーの使用に関するガイドラインが存在しないので、プレイヤー間のコンセンサスが取れないという点だろうか。例えば「こっちからブラボーを送ったのに相手がブラボーを返さなかった。失礼だ」みたいなことを言う人がいれば「ブラボーに対してブラボーって意味がわからない……」という人もいたりといった具合。その他にも「最下位確定してる時にブラボーをおくられても馬鹿にされたような気持ちになる」なんて人もいたりといった具合で、細かいコミュニケーションをザックリ切り捨ててブラボーのみに集約したが故のすれ違いが、今日もプレイヤー達のガラスのハートを傷つけている。いやはや、ブラボー以外の言語が存在しない世界でのコミュニケーションは大変だ……。
その中でも面倒なのが誤答した相手に誤ってブラボーを送った場合。こんなことをされたら大抵の人間が悪意を感じるところだが、てっきり正解だと思い込んでタッチしてしまったとか、タッチパネルの汚れを拭こうとしたらブラボーが暴発したというケースは充分にありうる。そして恐るべきことに、ゲーム中にこの誤解を解く術は存在しない!こ……これはイノケンが言うところのデジタルの悲しみ!時空を超えてあなたは一体何度………我々の前に立ちはだかってくるというのだ!飯野賢治!だいたい、ブラボーを言ったorブラボーを言わないのゼロとイチしか存在しないあたりが超デジタルだからね、Answer×Answer2は。あの目つきの悪いロンゲのアバター飯野賢治をモデルにしたと言われているし。
そもそも、面と向かっての対話ですら難しいのだからモニター越しの対話が困難を極めるのは当然ことなんだけどねえ。まあ、クイズゲーム中に送らなければならない程度の情報量なら「ブラボー」一語で充分かーと思ったら意外とそうでもなかったよみたいな話なのかな。むう…。ブラボー(ちょっとご飯食べてきますの意)。

ファンタシースターZEROとデジタルの悲しみ

DSのWi-Fiコネクションは子供たちを危険から守るためにコミュニケーションの機能がとことんまで削ぎ落とされているケースが多いのだが、オンラインRPGであるファンタシースターZEROで使用できる語彙が19種類の定型文のみ(ランダムマッチングの場合)と聞いた時には「あー、これはたのしみ(デジタルの悲しみの略)だなー」と思った。プレイする前から鼻腔をくすぐる悲しみの匂い。
で、昨日のプレイが楽しかった。良いデジタルだった。ランダムでマッチングした3人での冒険開始直後、一人が「シティへもどります(定型文)」と言ってテレパイプ(テレポートアイテム)で街へと帰っていた。おそらく前の冒険で得たアイテムを処分し忘れて持ち物欄がいっぱいだったとか、回復アイテムを購入し忘れただとかだと思うんだけど、なにせ「シティへ戻ります」だけなので詳しい事情はわからない。この辺でかなり悲しみの匂いが漂いだした。けっこうな時間を残る2人で待っていたのだけれど、気がつくと一緒に待っていた男は接続を切ってしまったようだ。そこへ街から戻ってきた彼、パーティーが1人減っているのに気付いて「ごめんなさい(定型文)」と一言。濃密なデジタルの悲しみの匂い。俺は「いやー、俺はこういうのがオンラインゲームの楽しみだと思ってるからさー。気にしないでよー」と言いたかったのだが、もちろんそれは適わないので「だいじょうぶ?(定型文)」と返信。すると相手は「ありがとう(定型文)」と答えたので、おそらくコミュニケーションは成立したと判断。2人で冒険を続行した。
冒険も半ばを過ぎたあたりでなんとなく彼の動きがおかしいなと感じた。なんか必要以上に逃げ腰というか。そこで気付いたのだが、どうやら彼の回復アイテムは底をつきそうになっているらしい。大きなダメージを負っているのに少量しか回復できないモノメイトで凌いでるあたり、かなり苦しそうだ。お互いに回復呪文が使えないキャストだったので、こういう状況は予想できていたのだが。そこで俺はすかさず「だいじょうぶ?(定型文)」と問いかける。それに大して彼は「OK」と答える。絶対無理してるよ……。絶対、「もう一回街に戻ったら流石にこの人怒るかも」って思ってるよ……。「気にしなくていいんだよ」と言いたいのだが、そんな複雑な表現は俺に許されていない。こ……これはイノケンが言うところのデジタルの悲しみ!時空を超えてあなたは一体何度………我々の前に立ちはだかってくるというのだ!飯野賢治
繰り返される「だいじょうぶ?」「OK」のループ。そしていよいよボス戦というところになって俺がもう一度「だいじょうぶ?(定型文)」と確認すると、彼は一拍ほど間を置いた後に「シティへもどります(定型文)」と搾り出すように答えた。ちょっと笑った。「いや、俺も回復アイテムを買い足したかったし……」などというのはもちろん伝えられない。彼の後について街へ戻って装備を整え、2人でボスに挑む。かなりギリギリの戦いの末の勝利を祝い、共に「やったー(定型文)」と勝利を喜ぶ。彼が「やったー」に続けて「ありがとう(定型文)」→「おつかれさま(定型文)」→「ありがとう(定型文)」の順番でメッセージを出したのは、限られた語彙を駆使して感謝を表現したように感じられた。実際はわからん。でも俺はそう感じた。デジタルが生み出すのは悲しみだけじゃないぜーと思った。
相手がオフラインになったあと、メニューからプレイヤー評価の項目を開く。ファンタシースターZEROではプレイヤー評価で○をつけた相手とのマッチングが優先されるらしい。彼との再会を希望して評価を○にしようとしたところで俺の手は止まった。最初に接続を切った人と彼の名前が並んで表示されているのだが、どちらがどちらだったのか忘れてしまったのだ。2人とも似たようなアルファベットの名前だったとはいえ、さっきまで一緒にプレイしてた人の名前を忘れるとは……。俺はそのまま暫く悩んだが、どうにもならぬと諦めてDSの電源を落とした。これ、エネミーゼロのインタビューで飯野賢治が話した事に似てるなあ。この世にデジしみの種は尽きまじ。