乾杯斉唱問題

俺の入学した高校は新設されたばかりで色々なものがなかった。そもそも俺がこの学校を選んだ理由はプールがなく、体育の授業で水泳をしなくてよいという理由だった。そして、どこの学校にでも必要性があるのかないのかわからぬままに存在している校歌というやつ、あれもまだ我が校にはなかった。
ないならないで出来るまで待っていれば良いものを、校歌の代わりに全校生徒で斉唱することになっていたのは長渕剛の乾杯であった。校長が好きな歌だったらしい。全校生徒で校旗を見ながら乾杯を歌うという異様。
ある時、真面目に乾杯を歌っていなかった一人の生徒が教師に殴りつけられた。あまりの理不尽に俺は俯いて笑いを堪えた。乾杯を歌わなかったので殴られるという理不尽はこの世に存在する。
この学校で歌われる「君に幸せあれ」というフレーズに限っては、全く意味を持っていなかったわけだよなあ。言葉には言霊があり歌には心があるというが、それが欠片ほども存在しない時だってあるということ知ることができたのは得がたい体験だったたのかもしれない。