マジ脂肪と匿名コミュニティ

一時期2chのゲーム業界、ハードウェア板で人気を博した「〜すぎて〜マジ脂肪」というフレーズ、これは「マリオ新作つまらなすぎて妊娠マジ脂肪」のような形で使用される。意味合いとしては「マリオの新作があまりにもつまらないので任天堂信者はマジで死んでしまいますよ」といった感じだ。
しかし当然のことながらマリオの新作がつまらなかったところで任天堂信者は命を失わないし、仮にこれで任天堂という会社がなくなることがあれば、それは任天堂信者という種族の死と同義であるかもしれないものの、もちろんソフト1本に任天堂ほどの会社を絶命させるほどの影響力があるわけもなく、つまりは、まあ別に誰も死なない。もちろんそんなことはこのフレーズを発した人間にもわかっているはずだ。このフレーズのキモは知性を感じさせないところにある。針ほどのことを棒ほどに、しかもインテリジェンスの欠片も感じない語彙で騒ぎ立てるところがポイントだ。これを考えた奴はおそらく馬鹿ではない。馬鹿を装った男だ。馬鹿に馬鹿と言われると一番ムカつくという点を効果的に突きながらも「何を」「どういう理由で」罵倒しているのかを短文の中ではっきりと提示し、その後の議論が過熱しやすいように仕向けている。馬鹿を装うということが上手く行えるのも顔が見えないネットならでは、更に言えば今までの言動から人格を推測することが不可能な匿名掲示板ならではだ(現実世界で言うならば『〜でちゅか?』などという赤ちゃん言葉によるからかい文句が近いが、あれは『お前の程度にあわせて幼児語をしゃべってやる』なのでこれとはまた少し違う)。
しかしこのフレーズが流行するにつれ、これを真顔で使っている人も増えたのではないかなあと思う。マジ脂肪が語彙のギリギリだというタイプの人間だ。
匿名掲示板タイプのコミュニティでよく言われる「昔は面白かったが今はつまらなくなった」の理由の1つとして、馬鹿のフリをしている人を見て「このレベルでいいんだ」と誤解してしまう新規参入者がいることが挙げられるのではないなと思った。匿名であるということは本来ならば蓄積されていくはずの個人情報を気にしなくて良いので、その場限りの馬鹿を装いやすい。これは匿名サイトの利点だろう。匿名サイトで人気を博する笑いとはそこから生まれるものが多い。しかしそれを見て「これでいいんだ」と思ってしまう人間が現れると面倒くさいことになっていく。たいていにおいてまともな人間は空気がおかしくなれば何も言わずに去ってしまうので、変化は即時知覚されることはない。メタがベタになるみたいな問題もあって、存在したはずのユーモアは磨耗していく。気がつけばそこは別の場所。いや、気がつくことすらないのか。まあ、ここら辺は難しいものだ。現状を楽しんでいる人間がいる限りは、その方向も決して間違っているわけではないのだろうし。
2chが深夜ラジオの投稿にとってかわったみたいな話を聞いたことがあるが、誰でも書き込めるというのは利点だとばかりは言えんよな。投稿後反映されるまでに審査があるような匿名掲示板があったらどうかと思うが、リアルタイムでの掛け合いという最高の長所を殺すことになるだろうから流行ることはあるまいな。ううむ。