石焼神

秋らしい曇り空だといえばその通りかもしれないが、それでも日中の気温はまだ高い。そんな中、ちょいと早めの石焼きいもを売る車が一台。皆さんも御存知の通りの節回しで「ぃいしやーきぃーいもぉー」などとやってるわけだけれども、普通とちょっと違うのは、そのテープから聞こえてくる声が幼児のものだということだ。愛らしい声による客引きを狙ったのかもしれんが、いくらなんでも節回しが微妙すぎる。その妙ちきりんなグルーヴから購買意欲がそそられることは全くなく、ただただ親爺が横で懸命に歌唱指導をしている図だけが浮かんできた。俺があまりの微妙さ加減に苦笑いしていると、何の前触れもなくテープの中の幼児が突然にスカッと抜けた綺麗な声で「いーしやーきいもー」。その瞬間雲間から目映い太陽の光がサーッと。
神が降りてくるかと思ったね。石で焼いた神が。まあ、実際は降りてこなかった。あと芋も買わなかった。神が降りてこない事がわかると、テープの中の幼児もやる気をなくしたのか、先程と同じ歪なリズムで「ぃいしやーきーぃーいもぉー」と言い始めた。冬が終わるぐらいには幼児も上手くなるのだろうか。ならないか。テープだしな。