映画ウォッチメン見てきたよ(ネタバレあるよ)

最近何を読んでも感情が全く揺れない…ことはないんだけど、うつ伏せの状態から軽く頭を持ち上げて「これってそれなりに面白い…のかなあ?」などと自分の感情グラフがどのような線を描いているのかも把握できていない顔で数秒間宙を見つめた後にペタンと床に顔を伏せるといった感じでね。面白さを吸収するエネルギーがない状態だったわけなのよ。そんなテンションで読んだコミックがウォッチメンだったんだが、これを読んでいる間は普段俺の背にのしかかっている漠然とした不安を一切忘れて、存分に不安になることができた。その不安の中に光る砂金一粒程度の希望が放つ光に魅了された。悲劇的な要素は多分に含まれているが、決して世界をシニカルに切り取って終わりというようなものではなく、随所から感じられる生命力のほとばしりが読む者の胸を打つ名作だったと思う。
事前に映画版について「ストーリーは原作に忠実らしい」「原作未読だと難解だと感じる人も多いらしい」という情報を得ていた俺は「動くロールシャッハを見ることができるならどうでもいい」というスタンスで参戦。推しメンのロールシャッハちゃんのイメージカラーの白いサイリウムを片手に「ウォールター、ヲイ!ウォールター、ヲイ!」と上映時間が終わるまでコールを送り続けた。本名で呼んだのが功を奏したのかスクリーンに映るシャッハcから爆レス来た。シャッハヲタには大満足の三時間だった。シャッハcが思ったより魅力的な声をしてたことに興奮した俺は、シャッハcのMCの間はずっと推しジャンプ連発だったので後ろの客には迷惑をかけたかもしれない。
それはともかくとして、ネットでちょっぴり話題になってる映画ウォッチメンは難解なのか問題についてだけど、多くの人にとって初見殺しであることは間違いないと思う。全ての情報に関して「一回しか言いませんよ」状態で、しかもその一回が映像に含まれていたり台詞に含まれていたりするので、字幕で見る人間にとってはけっこう辛いと思う。あと難解云々は置いとくとして、物語を構成する上での取捨選択もベストとは言えないかなーという気がした。というのは世間とマンハッタンの関係には結構尺を取って語っていたけど、その他のヒーローと世間の関係についての言及が足りないかなという印象があったのだ。そこは、話がぶつ切りにならないようにオープニングの数分(確かにこれは素晴らしかったけど)にまとめたのだろうが、当時の初代ウォッチメンに触れるシーンが極端に少なくなったために「マンハッタンという別次元の存在がかつてのヒーロー終わらせた」という、もう一つの重要なポイントについてもあまり触れられてなかったなと。
あとは……マンハッタンが奇跡の存在に気付くシーンだけど、あれだけ取り出すと「その話、小学生の頃に道徳の授業で聞いたよ…」みたいな陳腐な話になってしまっていて辛かった。原作だとナイトオウルの書いた記事と、その後のシルク・スペクターの台詞で補強されてたから良かったけど、あれだけじゃちょっと安すぎるよなー。
と、ここら辺までの話は上映時間の都合も考えるとしょうがないとしか言いようがない気もする。
その他のことで気になったのは世界一賢い男のセキリュリティ意識の低さかな。物語中に登場するパスワードは第三者に推測可能でなければならないという掟があるので仕方ないけど、PCの横に置いてある本のタイトルをパスに設定してるのには笑ったな。原作とほとんど一緒なのに実写でやると面白いなーと思った。
それは気になったと言いつつもわりとどうでもいいんだけど、こっちは個人的に重要。コミックでは、ナイトオウルの「オジマンディアスが自ら雇った刺客に誤射される可能性もあったろう」という疑問に、オジマンディアスが「その時は弾丸を手で掴むしかなかっただろうね」と平然と言ってるのけるシーン。人一倍の訓練で優れた肉体を獲得したにすぎないウォッチメン世界のヒーローが「弾丸?掴めるよ?」と言ってのけるシーンは、久しく忘れていたタイプの少年漫画的凄みを感じさせられる名シーンだったのだが、何故か映画ではアジト突入前に「オジマンディアスは弾丸を掴めるほど素早い。俺達二人でも勝てないだろう」とか言っちゃうロマンのかけらもないシーンに改変されている。なんでこんな真似を……と思ったけど、映像化に際して身体能力が数割増しになった彼らなら弾丸ぐらい掴めちゃいそうな印象あるし、別に先に言っちゃってもいいかって感じなんじゃろね。そういう意味で「男が足りない!」と思わせられる部分はちょっと不満だったかもしれん。ロールシャッハの手帳のエピソードも一度上司にクズファイルとして捨てられたものをシーモアが拾うこと(そしてその前後にかわされる会話)に大きな意味があると思うんだけど、これもシーモアが直接郵便受けから手にするという風に変わっているし。
と、なんか文句ばかりになってしまったけどキャストは全部良かった。漫画を実写でやる意味ってあるのか?とよく言われるけど、これに関しては充分すぎるほどにあったと思う。細かい表情があって声もあるってのはやっぱり大きいよなー。コメディアンやロールシャッハに関しては明らかに数倍好きになったし、他のキャラクターに関しても、より魅力的に感じることができるようになった。CDとコンサートは違うんだよ!みたいな。そして男が足りないと言ったばかりの口で絶賛してしまうが、揺るがぬ信念を吐き捨てて皆の前を去るロールシャッハは原作を凌駕するほどの男っぷりだったし、極寒の地に飛び散った血がロールシャッハテスト状の模様を描くという原作にないシーンは、最後まで信念を貫き続ける男の象徴として俺の心を揺さぶった。
色々言ったが、とりあえずはDVDが楽しみで仕方がない。ロールシャッハ単推しとしての視点やウォッチメン箱推しとしての視点など様々な角度からウリャヲイウリャヲイと楽しみたい。前列メンのマンハッたんのパートが少々多すぎるのがなー。人気メンだからしょうがないけど露出多めで媚び媚びな感があるから個人的にはちょっとね。スキャンダルで脱退したシルエットcの映像も収録されているらしいので期待は膨らむばかり。握手券がつかないのは残念だけど、それは歌とパフォーマンスだけで勝負できるという自信の表れだろうし、ほんと楽しみ。