高速ハッピーバースデイ

中学校の敷地内からハッピーバースデイの大合唱が聴こえたのでふと目をやると、数十人の女生徒が一人の女生徒を祝っているようだった。人数と服装からして、おそらく同じ部活動に所属する仲間であるように思われた。
しかし速いな。ある年齢帯の人間が複数人でハッピーバースデイを歌う時、何故か曲のテンポが大幅に速くなる。更なる加速を促すかのような激しい手拍子が加わる事もある。そして歌が終わると同時に意味もなく「わぁー!」などと口々に叫んだりする。今回見たハッピーバースデイもそういう種類のものだった。
これはやはり照れの問題なのかね。ミュージカルの舞台に立ってるわけでもないのに、日常の中で突然歌いだすというのは結構な異常行動なわけで、この恥ずかしい時間を早く終わらせたいという意思が歌の速度を速めるというのはあるかもしれない。間が持たないとか気まずいという問題もあるだろうな。特に祝われてる側は感謝の気持ちを表すにしろなんにしろ歌の終了を待たなくてはならないので、この手持無沙汰感といったらない。少しでも早く主賓にターンを回したいと考えるならば、自然と歌を口ずさむスピードも増そうというものだろう。
祝ってる側は誰に強要されるわけでなく自発的に祝っているわけだし、祝われてる側もおそらく嬉しいだろうと思う。しかし、歌で祝うというあまり現代人の気質に合っていない(けれども一般化してるので考えもなしに選択してしまう)手段をとってしまうと、自分達の性質にあっていない部分の調整をハッピーバースデイ側に求めなくてはならなくなる。その結果が加速ということなのだろうか。それにしても、歌の終わりの「わぁー!」が良いね。自分達で勝手にやった癖に照れてしまって、それを大声で誤魔化すというのが。そしてその照れを押してまで誰かの誕生日を祝いたいという清らかな心よ。
今回は俺が見たハッピーバースデイは数十人規模ということもあって、個々の加速が作用しあった結果、普通より遥かに速いものとなっていた。高速で駆け抜けるハッピーバースデイは摩擦熱で赤く燃え、日の沈み始めた空をもう一度明るく照らし、すぐに消えた。まるでロウソクの火が吹き消されたような光景だった。