極悪の華 北斗の拳ジャギ外伝(下)【ネタバレあり】

上巻の時点で予想したとおり面白かった。しかし、上巻が『ジャギの小規模な失敗』といった感じで比較的気楽に読めたのに対し、下巻はページをめくる毎に増していく憂鬱との戦いだ。原作との齟齬は少々あるものの、ジャギを主役としたスピンアウト作品という無理難題をきっちり描ききった快作だと思う。
ただ、上巻のレビューの時も書いたことだが、ジャギに同情の余地や言い分を与えてしまうのが果たして正解なのかなあという疑問は付きまとってしまうな。もちろんこれは正史から外れたスピンアウト作品であり、また北斗自体連載から25年以上も経っているということで、今更そこら辺に異を唱える必要はないとも言えるのだが、これから俺が北斗本編を読むときには少なからずジャギに同情的な気持ちを持ってしまうかもしれないなあという危惧があるわけで、そこに些か居心地の悪さを感じてしまうのだ。
もし北斗の悪党の言い分に耳を傾ければ、それは我々にも充分理解できる部分があるに違いない。認められぬ自己顕示欲に苦しむアミバ、強い自尊心を持ちながら他人に頭を下げて生きてきたカーネル、デビルリバースや狗法眼ガルフあたりも含め、コミック一冊分ぐらいにはなりそうな悲劇を背負ってそうな面子を、コメディ一歩手前の狂気にまで誇張することで、憎むべき敵という以上の意味を与えぬようにする。そんな彼らの言い分が一斉に聞こえてきたら、北斗という物語は別物になってしまうだろう。
いや、これは北斗の物語を尊重すると同時に「既存の物語を別物にする」という狙いもあったに違いない。それだけの覚悟を持って描かれた作品であろう。そして、作者はジャギに言い分を与えてしまうことに対して慎重だったと思う。ラストシーンにはわずかな救いがあるものの、彼は死の間際に愛する人の幻を見ながらも、最後までケンシロウに恨み言を言いながら絶命するし、本作中には描かれてないもの、愛する人を奪われる辛さを誰よりも知りながら、彼はレイの妹アイリをさらって売り飛ばすほどに人の心を失っているのだ。悲しみを背負うことで強くなった他の三兄弟と違い、悲しみを背負うことから逃げた男に降りかかる当然の報い。しかし、それは自業自得だと吐きすてることができるようなものではない。大切な物が何であるかは、だいたい全てが終わったあとに気付くのだ。