紫鏡とイルカ島

ムラサキカガミという言葉を聞いた人は、なんとしても20歳になるまで忘れなくてはならない。20歳になっても覚えていたならば、その人は死んでしまうからだ。…これはけっこう有名な都市伝説なので聞いたことのある人は多いと思う。はじめて聞いたという20歳以下の人にとってはあまり気分の良い話ではないと思うが、ムラサキカガミを覚えていたから死んだという人の話は聞いたことがないので安心して欲しい。まあ、それは覚えていた人間が一人残らず死んでいるからなのだけれども。
この20歳までに忘れなくてはならない系の都市伝説というのは多いらしい。

http://www5d.biglobe.ne.jp/~DD2/Rumor/murasakikagami.htm

 似たような話として、「赤い沼」、「紫の亀」、「黄色い(黄色の)ハンカチ」、「イルカ島」、「呪いの亀」、「血まみれのコックさん」、「黄色いミイラ」、「銀色のナイフ」などがあります。他にもまだまだあるはずです。

…黄色いハンカチあたりキツいな、映画のタイトルだし。
色+何かという形が多いのは元祖がムラサキカガミだったからというせいもあろうが、「特殊な色の何か」というものは印象深いという理由からだろうか。うっかりビジュアル的に想像してしまいそうなあたりがポイント。頭に絵として浮かんだものは消し去りづらいものだ。なんかここら辺は世間でよく見る記憶術に似ている気がする。
忘却というのはコントロールできない。コントロールできないものをコントロールせねばいけない焦りが恐怖につながるということで亜流がたくさん生まれたのであろうか。
この中でも

この中ではイルカ島が若干特殊な例で、憶えていると訪れるとされる災難の内容が、不幸になるとか呪われるとか抽象的なものではなく、ある種の幽霊や妖怪のような存在に足を奪われる、というものになっていることがあります。

  • 全国観光スポットガイド イルカ島

http://www.jalan.net/kanko/SPT_124137.html
ここの関係者やご家族、近隣にお住まいの方はどうすれば良いのだ。忘れたいものが常に窓の外にあるってのは、ちょっとしたホラーの題材になりそうだぞ。
このイルカ島、別バージョンとして「忘れることができなかったものは体がバラバラになる」というなんともハードなものがあるらしい。おそらくは足切断から分かりやすく進化したのではないかと思うが、俺がとある都市伝説サイトの掲示板で見た頃にはもっと面白い進化を遂げていた。「イルカ島という言葉を20歳までに忘れることができなかった人は爆発して死ぬ」のだという。派手な恐怖を追加した結果がこのざまだ。「爆死って怖いよね。じゃあ、忘れられなかったら爆死することにしよう!」という何とも無邪気な考え。かくして「20歳までに忘れることができないと」というサイコホラー感と「爆死」というアンバランスさが何とも奇妙な味わいを生み出した。例えるなら幼子の声の手鞠唄で気分を盛り上げておいて障子が開いたら立っているのはバット持った黒人って感じ。しかもその無茶苦茶な状態を発動させるキーワードが「イルカ島」というなんとも呑気な言葉であるあたりも愉快である。
さあ、次に俺がイルカ島の噂を聞く頃にはどんな尾ひれがついてるだろうか。「忘れてないと地球が爆発する」ぐらいのレベルまで到達してるかもしれんな。そのときは諸君等にはなんとしても忘却してもらわんと困る。もはやイルカ島は君だけの問題じゃない。