パラレルパフューム

Perfumeをアイドル最後の希望と言っちゃうのはなんか違和感あるのよね。「最強の恐竜は何か」って話をしてるときに恐竜戦車を挙げるような感じで。恐竜だけど戦車だよ?っつう。
気になってたのがPerfumeファンの間で歌詞語りがあんまりなされないことね。だいたい話題にのぼるのは「セラミッガー」とか「ツンデレーション」ぐらいで。邦楽語りは往往にして歌詞語りになりがちだと揶揄されることが多い中、これほど歌詞に焦点が当たらないのは珍しい気がする。ファンの需要がそこにないからというのはわかるんだけど、アイドルでこれはかなり特殊じゃないだろうか。
その理由のひとつに、エフェクト掛けすぎなボーカルのせいで、アイドルソングの魅力であるところの歌い手・歌詞・曲の間におこる化学変化が起こりにくいということがあるんじゃないかと思う。藤井フミヤの微妙な歌詞と吉川ひなのの面白ボイスが朝本浩文の曲に乗った途端にパッと輝きだすような、そういう衝撃がないというか。いや、だからPerfumeが駄目ですって話ではない。そこで勝負しなかったからこそ今の人気があるわけだから。むしろ、そこを捨てたのは作戦として成功だろう。アイドル化学変化の結果として発生するのは「気恥ずかしさ」であり、アイドル好きはその気恥ずかしさに心をくすぐられるわけだが、一般の人にしてみればそんな気持ちの悪いもんは必要としてないだろう。
そもそも、だいたいにおいてアイドルソングの歌詞っておっさんが書いてるもんなわけで、そのまま世に出しても中年男性の匂いしかしない。今までのアイドルが化学変化でおっさん臭を別に匂いに変えていたのに対し、Perfumeは最初から匂いをさせないという技を用いたわけだ。ただ、ファンはPerfumeに何のドラマも求めていないわけではない。だからこそ詩の外にドラマを求め、「広島時代からの苦労人」というストーリーについて語ることが多いのではないかなーと思う。
そんな中、個人的にGAMEで血の通った良い歌詞だなと感じたのはチョコレイト・ディスコ。歌い出しの「チョコレイト・ディスコ」で「あー、またお得意の響きだけを重要視したどうでもいい造語が…」と思わせといて、ラスト付近で「なぜか教室がダンスフロアに」と不条理ながらもストーリーを成立させちゃうあたりがなんとも。うすぼんやりとしていた世界にパッとスポットライトが当たる感じ。「見えるぞ!俺にもチョコレイトディスコが見えるぞ!」みたいな。それだけに、これをもっとエフェクトかかってない状態で収録して欲しい…というのは、これまた個人的な希望なのだろうか。
Perfumeのボーカルに魅力がないと思っているのなら、最初からこういう期待はしない。しかし、彼女たちにはそのアイドル力を存分に発揮したスウィートドーナッツという名曲があるのよな。「最後の一言 すっと冷えて」という歌い出しだけで完全に持っていかれる。あの、すっとぼけているのに今にも泣き出しそうにも聴こえる不思議な歌声。憂いを秘めた明るさはスウィートドーナッツの歌詞を100%表現しきってると断言しても良い。あれこそ俺の望むアイドル化学変化の姿。それだけに、Perfumeが選ばなかったPerfumeパラレルワールドPerfumeに思いを馳せてしまったりするわけなのです。……せめて歌詞は昔みたいに木の子が担当した方が良いんじゃないかと思うんですが、そうでもないんですかね。などと、比較的ナマっぽい「Take me. Take me.」の繰り返しに聴き入りつつ考えたりしました。