再び、すれちがいドラクエ

新宿渋谷池袋あたりの駅構内で、すれちがい通信待機状態の自分に向かって大勢の人が歩いてきた時の興奮はかなりのものだ。サイヴァリアのBUZZシステムのような快楽、もしくは近年のシューティングゲームに見られる、アイテムが自動的に自機に吸い寄せられるシステムのような面白さを感じる。しかしなー、すれちがい通信中に保持できるデータが3人分までなので、更にすれちがい通信を続行したければ一度DSを開けて操作をした後に再びすれちがい通信待機状態にしなくてはならない。これさえなければ未曾有のすれちがい体験が楽しめたのに。東京メトロから山手線に乗り換える間に俺のDSのスコアカウンターが狂ったように回転し続けるのを想像すると笑顔になる。うっかり目的地へ移動する事も忘れて駅で一日を過ごしてしまうかもしれんぞ。恐ろしい事だ。
そんなことを考えながら電車の座席に座っている俺の前を、胸のあたりでDSを構えた眼鏡の若者が歩いていく。次の車両へ、また次の車両へと。すれちがい亡者だ。すれちがい通信に取り付かれた幽鬼の顔だ。「移動中にすれちがう」という所から主客が転倒し「すれちがうために移動する」になることにより、ゲーム性は増すが日常性は薄くなる。女子高生の手にDSを発見し、何が何でもすれちがおうとしたら車に撥ねられるなどという事故もあり得るかもしれんな。あり得んか?いや、俺だったらやりそうだ。代替現実ゲームは日常社会のルールの中に別のゲームルールを持ち込むことなので、はしゃぎすぎると現実からお灸を据えられる羽目になるというか。
それにしても無制限にすれちがえるドラクエ、やりたかったなー。宿屋に滞在させることができる上限が30人というのはそのままで良いから。そうするとログはガンガン流れていってしまうわけだけど、宿屋なんだから自分が見てない間に人の出入りがあるのは当たり前じゃんという感じで。

すれちがいドラクエ

すれちがい通信の代替現実ゲーム的側面に多大な可能性を感じている俺なので、ドラクエ9を見逃すわけにはいかなかった。すれちがい通信の致命的な弱点である「同じゲームをプレイしてる人が少なすぎて全然すれ違えない」という問題を余裕で解消する程度にドラクエが出回るのは間違いないので、俺の期待は大きく膨らんだ。さっそくDSをすれちがい通信待機状態にしたままカバンに放り込んで家の外へ飛び出す。そのまま徒歩で街中を走り回る。これが俺のドラゴンクエストだ。いつもは喧騒を避けて人通りの少ない路地を猫背でとぼとぼ歩く俺だが、今日ばかりは陽の当たる大通りを口笛吹いて歩いて行く。これ、軽度の引きこもりの人のリハビリに使えたりしないだろうか?いや、誰ともすれ違えなくて「俺はやっぱり必要とされてない……」などと落ち込むはめになったりする可能性もあるか……。そんなことを考えながら、人通りの多い商店街を中心に徘徊を続ける、すれ違い亡者こと俺。
どこに行けば大量のすれちがい通信に成功できるのか?小学校か?小学校の周囲をメタルスライムを求めて徘徊する勇者のごとくウロウロし続ければいいのか?いや、いかん。このご時世だとポリスとエンカウントして投獄もありえるからな。まだ牢屋の鍵を入手してない俺としては、それは避けねばなるまい。
歩きっぱなしで疲れたのでゲーセンでAnAn2をプレイ。しばらくした後、ふとDSを見ると見事すれちがい通信に成功している。座ってるだけで自動すれちがいマシーンとして機能することに成功した。ネットに「今日は一日中○○というゲーセンで遊んでます」などと書き込みをすれば、うまい事すれ違いまくれるかもしれんなあ。
で、肝心のすれちがい通信の特典なのだが、宝の地図のやりとりという要素はあるものの、基本的にゲームに大きく関わるようなメリットはない。すれ違ったキャラクターのプロフィールが見れるだけだ。まあ、そんなもんだろう。離島とかでドラクエやってる人もいるだろうし、あまりにすれちがい通信に力をいれてしまうのは問題があろう。名簿を眺めてニコニコするだけで充分だ。「この剣聖・パラノイアってキャラは、さっき薬局ですれ違った老婆かなー」とか考えてるだけで愉快な気持ちになれるのだから。
しかし、すれちがい通信って「異なるソフト間であっても通信できる」みたいなことは仕様的に可能なのかな?いや、データのやり取りはゲーム内容が違うわけだから無理なんだろうけど、例えば育成ゲームで、どんなソフトがスロットに刺さっていようと、すれ違った人数に応じてパラメーター増加、同じソフトだったら増加の幅が大きく、またプロフィールの交換が可能……とか。今回はドラクエという特殊なケースだからともかく、やはり、すれちがい通信の致命的な弱点は冒頭で述べた「すれ違えない」という点なので、これが解消されれば楽しくなるんじゃないかなあ。
さっきのゲーセンの出来事から思いついたけど、この何でもすれちがいシステムが実装されたキラーソフト発売に合わせて「今日から一ヶ月間、うちのゲームセンターのスタッフ全員が待機モードのDSを携帯してフロアに立ちます」などということをやったら売り上げがちょっぴり伸びたりしないかな?
「客が来ても、フロアを一周したら即退店しちゃってウザいだけなんじゃないの?」という可能性もあるけど、ここでポイントなのは「店員とのすれ違いを目的とした他の客ともすれ違える」という点。つまり、ゲーセンで遊び続けていれば次から次へとすれちがい通信が成功しちゃうというわけだ。どうよ、これ?ビジネスチャンス到来じゃね?(獲らぬ狸どころか存在しない狸の皮を数え始めた)
……などという妄想はともかく、やはりすれ違い通信にはロマンがあるな。DSの歴史が終わるまでに一本ぐらいすれちがいメインのソフトがあると良いなーと思いつつ、今日も明日も俺は街を駆け回るのだ。俺の冒険の舞台はストリートだーゼー。

骨折の理由は

母親から電話で、妹が足の骨を折ってしまったという話を聞いた。当然のことながら俺は、妹の骨折の理由を問うた。その問いに対し、母親から一言だけ「テコンドー」という返事がきた時、俺の思考は異次元に迷いこんだ。母親の返答があるまでの一瞬に、俺は『自分の妹が骨折した』という時に想像しうる幾つかの原因について考えていた。転んだだとか、階段から落ちただとか、重い物を足に落としてしまっただとか、交通事故だとか。そんな可能性の網目をすり抜けて飛び込んできた『テコンドー』というフレーズに対して、俺は阿呆のような声で「えっ?」と呟くしかなかった。
その後、段階を追った説明があって、俺は事のなりゆきを理解した。妹は健康のために何か運動を始めようと思い、たまたま近所にあったテコンドー教室を選択し、その練習中に骨折してしまったということらしい。まあ、近所にあるからという理由でテコンドー教室を選択したのが少々おかしいとはいえ、最初から説明してもらえれば充分に納得がいく話だ。
しかし、俺が母の口から「テコンドー」と言う言葉を聞いたときに感じた不条理。入り口に『骨折』、出口に『テコンドー』を配置したカフカ的迷宮。これはかなりショッキングなものだった。ひょっとしたらカフカの物語も、そこに至るまでの経緯をしっかり説明されれば意外と納得のいくものだったりするのかもしれないなと思った。何か理由があったんだよ、虫になるような理由がさ。

テーブルトーク式恋愛相談

俺は知人女性から電話での恋愛相談を受ける事が多いのだが、当然ながらこれは俺が恋愛の達人として認知されているからでは全くなく、つまりは半ば一方的な心情吐露に近い長話を文句も言わずに聞いてくれる安全な人間として認識されているということであろう。
しかし、まさか相手の女性も電話の向こうの俺が6面体ダイスを2個振った結果でリアクション内容を決めているとは思うまい。相手の問いかけに対し、出目の合計が奇数なら肯定的な反応。偶数なら否定的な反応を示す。なおゾロ目が出た場合は振りなおしなのだが、次に出る目に『強い語気で』という属性を付加するものとする。つまり出目の順番が『ゾロ目→奇数』であれば『強い肯定、強い同意』という反応をとるわけだ。ロールプレイとしてはかなりの面白さである。さすがにこれだけ聞くと俺が冷酷な人間であるかのような誤解を受けそうだが、相手を否定をすれば、それに対して納得するにしろ反論するにしろ、何らかの手持ちの情報をしゃべるのが人間というもの。相談を受ける上で重要なのは相手の情報を多く得て、それを足がかりにアドバイスを組み立てることだと思うので、これは相手を思いやった行動だと自負している。まあ、情報が増えた所で次の質問に対する反応もサイコロで決めるわけだから、別に情報が増えたところで関係ないんだが。
そして会話のラストだが、これが重要だ。よく言われるところの「相談を持ちかけてくる相手は、だいたい自分の中での答えは決まっている。要するに誰かに後押しをして欲しいだけだ」というやつだが、これを利用する。ゲームマスターである俺としては「このゲームマスターの提供したシナリオは感動的だった」また「シナリオをクリアする上での選択はプレイヤー自身が行ったので、お仕着せのシナリオを一方的に聞かされるのとは違う、精神的な高揚感があった」という具合に満足度の高いラストを提供したいわけだ。ここで有効なのは「結局、君はどうしたいんだい?」という台詞だ。これをシナリオが最高潮に盛り上がった時にぶつけると良い。あとは相手が一方的にエピローグに繋がる長台詞を披露し始めるはずだ。シナリオは電話がかかってきた時点で完成されているとすら言えるのだが、たったこれだけで、プレイヤーたる女子は自分の選択の積み重ねがシナリオのラストを導いたかのような錯覚を覚えるのだ。
如何だっただろうか?以上がベーシックルールである。俺ぐらいの上級者になると、この程度のセッションでは満足できないので、使用するダイスを20面体ダイスにしている。しかも1から20までの目に詳細な結果を設定し(1が出たら、慈しむような声で浜崎あゆみを歌って相手を慰める、など)、更なる高度なプレイに挑戦している。このエキスパンションルールを活用しだしてからは、めっきり女性からの相談が減り、それどころか知人の間で俺に対する陰口が囁かれていると言う噂も聞く。まだまだルールに改善の余地があるということだろう。万人が楽しめるルール作りというのは困難を極めるものだ。

Berryz工房 青春バスガイド/ライバル 発売記念イベント

さて、俺はモー娘。の五期メンバーが加入したあたりで一度ハロプロのファンをやめている。あれこれあって再びヲタ界に戻って来たものの現在はCDを聴ければそれで満足という状態で、コンサートやイベントに足を運ぶことは二度とないだろうなと思っていた。ところが先日買ったBerryz工房のCDに封入されていたイベント抽選券が当たり、数年ぶりに魑魅魍魎の蠢く会場へ向かう事となった(無論、我自身もその百鬼夜行の一員であるのだが)。この手のイベントの目玉となっているのはミニコンサート終了後の握手会であるらしく、意中のメンバーの手を握るためにヲタ達はこぞって同じCDを何枚も何十枚も買うのだと聞く。しかし基本的に二次元オタである俺からすれば握手というものにあまり興味はなく、というか本来は友愛の情を示すためや信頼の証明として行われる握手という行為が、年端も行かぬ娘達と中年男性である俺の間で何の意思疎通もないまま行われるという状況が、ただただ不可解であるとすら言えた。にも関わらず俺が握手会の列に並ぶのはBerryz工房の巨人・熊井ちゃんを間近で見るためであった。15歳の若さでありながら一説によると182cmを超えたという、アイドルとしては完全に規格外なその姿をひと目だけでも見たいという気持ちは抑え切れなかったのだ。
ニコンサートが始まり、メンバーがステージに登場した時に驚いたのは、その顔の小ささだった。よく年嵩の女性や昼のバラエティ番組の司会を務める黒眼鏡が若い娘を褒めるときに使う「顔小さいねー」というフレーズだが、なるほど、この言葉を口にしたくなる気持ちがよくわかった。そのリアリティのないまでの小顔は恐怖を感じるレベルで、俺は実物を前にして更にBerryz工房という存在の現実味が薄れていくのを感じた。
中でも熊井ちゃんの小顔はその巨躯とあいまって非常に強いインパクトがあった。美しい巨大昆虫のようだった。この巨大昆虫が我々と同じ生物であるとはとても思えなかった。
その思いは、ステージで繰り広げられるジェスチャーゲームを見た時に、より深いものになった。司会者が「シンクロナイズドスイミングのポーズをとれ」と指示し、他のメンバーが思い思いにそれらしいポーズをとる中、熊井ちゃんはフッと目を閉じ、その胸の前で静かに手を合わせて合掌のポーズを取った。その神々しさから一部の人間に生き如来と呼ばれる熊井ちゃんがとるそのポーズには多大な説得力があった。しかしシンクロナイズドスイミングのポーズというお題を前に一体何故…。怪訝な顔で真意を問う司会者に対し、如来はカッと目を見開いて「これは水面に飛び出す直前の一瞬を切り取ったものである」と厳かに告げた。「結果があるのは過程があるからです。我々はそれを忘れてはなりません」という熊井ちゃんからのメッセージだったのであろう。恥ずかしながら最近の俺は結果を出す事だけに焦り、過程というものの需要さを忘れていた。15歳の如来のアドバイスに俺は涙が止まらず周りの客に気付かれぬように両の掌を合わせて熊井ちゃんを拝んだ。
そしてステージが終わり、握手会が始まった。先に述べたようにこれに関しては個人的にあまり感慨はなかったのだが、ただ一部インターネットで言われていた態度の悪いメンバーが存在するなどという事実はなく、全員が満面の笑みで握手に応じてくれたのが印象深かった。
そして一列に並んだメンバーの最後に控えている熊井ちゃん。彼女の大きさを目測することが今回のイベントの最大の目的なわけであるからして、この時だけは俺の緊張感も高まった。しかし熊井ちゃんの武器はその巨躯だけではなかった。前述の小顔である。俺自身の身長から比べて、少なくとも175cmは余裕で超えているように見えたし、ネットの情報によると180cmの男よりも目線の位置が高かったという話もあるぐらいなのだが、あまりに小さい顔と巨大な身長のバランスが視覚情報として上手く処理できず、俺の脳は酷く混乱した。大きいのに大きく見えない。小さくすら見える。これはもはや人間の形をした騙し絵のようなものだった。その生けるトリックアートの目を見つめながら手を握っていると、末端部分から得体の知れぬ不安が流れ込んでくるようで、俺は早々に手を離して逃げるように会場を後にしたのだった。
まさに神秘体験であった。幼少のころUFOにさらわれた体験を遥かに凌駕する体験であった。会場の外は土砂降りの雨だったが、俺は身に染み込んだ困惑を洗い流すべく傘も差さずに外に飛び出した。雨は徐々に激しさを増していったが、俺は天を見上げて空模様を確認することはしなかった。空を見上げた瞬間、天から俺を見下ろす熊井ちゃんと目があってしまいそうな気がしたからだ。

なっち星

ある時、モー娘。のコンサートの終演後に、この世で一番なっちを深く愛する2人の男が殴りあったという話がある。搾り出すような声で「なっちはなぁ……。なっちはなぁ…」と叫びながら、この世で自分だけが知るなっちの美しさを伝えるべく拳を振るいあったと聞く。警察も来たと聞く。
永きに亘る激しい争いの末に2人は共に倒れた。その姿を見た神は彼らを哀れに思い、2人の姿を星に変えて空に上げた。皆さんもご存知の双子座である。
俺がこの喧嘩に関して知っているのはインターネット上の情報だけであり、この喧嘩が実際に起こったものなのか、それとも誰かの創作なのかはわからない。ただ、事実として夜空にカストルとボルックスという2つの星が輝いている以上、これが全くの作り話であるとは思えない。愛のために血を流し、その身が星となって輝くほどに内なる愛を燃やした男達。しかし、多分なっちは彼らの事など知らない。まあ、彼らだって実際はなっちのことなんて何も知っちゃいないのである。

今週のToLOVEる

痴漢撃退爆弾とやらで変質者を追い払おうとしたルンが「着衣消滅ガス弾とまちがえた」という台詞と共に全裸になるシーンに震えた。なんだろ、今まではデタラメなりに全裸になる理屈を捻り出そうと努力をした痕跡が見て取れたけど、これは一線越えたなーという感じがした。幼児の書く稚拙な文章だったのが、ある時点で突然に法則性のわからぬ単語の羅列に変わったかのような恐怖。「まちがえた」って言うなら、そもそも着衣消滅ガス弾なるものが存在してる時点で間違ってるもん。おかしいよ。試しに発声してみてよ「着衣消滅ガス弾と間違えた」って。完全におかしいでしょ、これ。
まあでも、強化スーツを着たテロリストを人道的に無害化する目的等で存在する可能性もなくはないし、それをルンが悪戯目的で購入したということはありえるかもしれないしなあ。痴漢撃退の手段として爆殺をアリだとするのが宇宙の懐の深さなわけだから、一般人が通販で着衣消滅ガス弾を購入できるぐらい普通のことかもしれん。それにしてもこのフレーズは凄いなー。『存在する事自体わけがわからない物を間違って使用する』という謎と謎の掛け算。